相続人の中に海外に在住の方がいる場合、連絡を取れるか取れないかで対処方法がかわります。
【連絡が取れない場合】
海外に行ったことは知っているが、その後何十年も経っていて、現在の住所も分からず、連絡をとるすべがない場合があります。
この場合、行方不明者として扱う手段を考えます。
具体的には、家庭裁判所に「不在者財産管理人」を選任してもらい、その「不在者財産管理人」が遺産分割協議に参加できるように家庭裁判所から許可をもらいます。
その許可があれば、「不在者財産管理人」が遺産分割協議に参加できるようになりますので、相続手続を進めることが可能となります。
【連絡が取れる場合】
この場合、海外在住の相続人が日本に来られなくても、電話・手紙・電子メール等を利用して、遺産分割についての話し合いをすることができます。
相続人全員で合意に達することができれば、海外在住の相続人は遺産分割協議書を現地の大使館/領事館に持って行き、その面前で署名・拇印します。
するとその署名・拇印が本人によるものであることの証明として、「サイン証明書」を発行してくれます。
これによって相続手続を通常通り進めることが可能になりますが、「在留証明書」も必要という手続き先もありますので、手続き先への必要書類の確認はしておくべきです。
「不在者財産管理人」を選任するにあたっての注意点は以下の通りです。
【1】「不在者財産管理人」選任の申立と同時に、遺産分割の「案」を提出するのが実務です。ですので、他の相続人全員とは分割協議内容について合意ができていることが前提となります。
【2】「不在者財産管理人」は不在者の財産管理を目的としています。
正当な事由や特別な実情でもない限り、不在者が取得する財産はないというような遺産分割の「案」を家庭裁判所に提出しても認めないでしょう。
ですので、不在者は「法定相続分相当」を取得する内容の遺産分割の「案」を提出しなければならないことになります。
【3】「不在者財産管理人」は、管理するための必要な費用・報酬を財産の中から受けられます。管理・維持するための費用や報酬は受けることができますが、一般的には小額です。
【4】「不在者財産管理人」は、いつまで職務をつづけるか。
(1)不在者が現れた時
(2)不在者について失踪宣告がなされた時。
(3)不在者が死亡したことが確認された時。
(4)不在者の財産がなくなった時等、遺産分割協議が終わったからといって、
職務が完了というわけではありません。
【5】「不在者財産管理人」の職務は、以下のようなものがあります。
(1)善管注意義務
(2)受取物等の引渡義務
(3)金銭費消の責任
(4)費用償還請求等
(5)財産目録調製義務
(6)財産状況の報告・管理計算義務
(7)保存上必要な処分命令に服する義務
(8)担保供与義務
※職務の(1)は、ご自身の財産以上の注意をもって管理事務の遂行をする義務なので、この注意義務に違反すれば、責任を追及されることもあります。
また、家庭裁判所の取扱いにもよりますが、年一回家庭裁判所に報告の義務があります。
最後に、「不在者財産管理人」の活用事例についてですが、その目的の多くは、「遺産分割協議」をするために活用しているのが現状のようです。
「不在者財産管理人」制度を利用すれば一応の手当てはできますが、不在者の財産の最終的な処分や、身分関係(相続関係)等についてはこの制度のみでは対応することができません。ご事情に合わせて「失踪宣告」の申立も同時に考える必要があるかもしれません。
各ご家庭・親族間の様々な問題を踏まえて、「不在者財産管理人」制度の活用についての適切なアドバイスも無料相談にて受付しておりますので、ご活用下さい。